コリネバクテリウム属(Corynebacterium属)の細菌は、ヒトや動物の細菌叢(フローラ)に広くみられる細菌です。その多くは病原性を示さず、いわゆる片利共生細菌として宿主上で生息しています。好気性または通性嫌気性の細菌で、形態学的にはグラム陽性で運動性のない無芽胞性の桿菌(棒状の形態の細菌)であることが知られています。また、コリネバクテリウム属の著しい特徴として、ミコール酸という風変わりな脂肪酸が細胞壁に含まれていることが挙げられます(これは、比較的近縁の結核菌と共通する性質です)。
最もよく知られるコリネバクテリウム属の菌は、感染症の一つジフテリアの原因となる C. diphtheriaeです。この菌は、コリネバクテリウム属の中でも例外的にヒトの疾病の原因となる菌です。C. diphtheriaeが産生するジフテリア毒素が宿主細胞に作用すると、タンパク質合成という細胞の必須機能が損なわれ、細胞は死んでしまいます。ジフテリアは、予防接種が開発されるまでは多くのヒトの命を奪う非常に恐れられた病気でした。 ブドウ球菌属(Staphylococcus 属)の細菌は、全長1 µm程度のグラム陽性・通性嫌気性球菌で、運動性はありません。また、過酸化水素を水と酸素とに分解する反応を触媒する酵素カタラーゼをもっておりブドウ糖を嫌気的に分解することができ、同じグラム陽性菌であるカタラーゼをもたないレンサ球菌(Streptococcus 属:グラム陽性菌)との識別に用いられます。ブドウ球菌属は、ヒトや動物の皮膚や鼻腔をはじめ体内外に分布している常在細菌で、少なくとも40菌種が分類されています。ヒトの皮膚の健康に関わる表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌が有名で、多くの種は犬や猫、家畜から検出されます。
正式名称はキューティバクテリウム・アクネス (Cutibacterium acnes; C. acnes)。以前はPropionibacterium acnes (P. acnes) と呼ばれていましたが、2016年に名称が変更されました。全長3~5 µm、幅0.4~0.7 µmの大きさのグラム陽性桿菌です。アクネ菌は通性嫌気性細菌であり、毛穴などで主に増殖しますが、酸素を分解する酵素をもっており、皮膚の表面にでてきても成長することができます。皮膚の細菌叢の中でも群を抜いて豊富に存在している皮膚常在菌です。
皮脂を分泌する皮脂腺は毛穴の中にあり、皮脂が多く存在すると、アクネ菌が過剰に増殖して皮膚を刺激してしまいます。その結果、このアクネ菌を排除しようと免疫反応が起こり、炎症が起きて赤ニキビを作ったり、黄色い膿の原因となったりします。 「微生物」とは、肉眼で詳細を把握出来ないくらい小さい生物の総称です。細菌や古細菌、菌類(キノコやカビ)、原生生物などが含まれています。この微生物は2つのタイプに分かれます。一方は原核生物で、ミトコンドリアや小胞体、ゴルジ体などの細胞内小器官をもたず、ゲノムDNAが折り畳まれた核様体を有している生物です。この原核生物には前回のブログに登場した「細菌」と高熱の温泉や深海、高塩濃度の池など過酷な環境で良く見つかる「古細菌(アーキア)」に分けることができます。もう一方は人間や動物、植物も含まれる真核生物です。ゲノムDNAが核膜に覆われた細胞核と細胞内小器官を有しています。このうち、微細で発酵食品で馴染み深い酵母やカビ、キノコが含まれる生物を「真菌」と呼びます。真菌は、胞子を形成するものが多く、無性生殖を行い、何らかの環境変化が起こると有性生殖を行う2つのライフサイクルをもっています。また、多くは定着性で、細胞壁を有していますが、光合成を行う葉緑体をもっておらず、体外の有機物を分解して細胞表面より吸収しています。
DNA配列解読技術の進歩により、様々な環境(土壌・海水・生体表面や内部など)に生息する微生物から遺伝子情報であるDNAを抽出し、網羅的に解析(メタゲノム解析)することが可能になりました。これまでのように特定の微生物のみに着目した研究から、多数の生物群の相互関係を俯瞰的に捉える研究が進められています。
「16S rRNA遺伝子解析」とは、微生物のうち「細菌」に着目し、その存在比率を推定する手法です。採取した微生物からDNAを抽出し、細菌と古細菌などの原核生物が有している「16S リボゾームRNA遺伝子(16S rRNA遺伝子 または16S rDNA)」という遺伝子断片を増幅・解読することで行います。16S rRNA遺伝子の塩基配列は細菌種毎に少しずつ異なっており、その配列の違いを解読することで、どのような細菌がどれ位の割合で存在するかを知ることができるのです。 私たちは細菌と共に暮らしています。常に体内の決まった部位に存在している細菌を「常在細菌叢」と呼びます。細菌といえば食中毒や腐敗、感染症などの言葉と一緒によく耳にすることから、悪いイメージがもたれていることが多いです。しかし、私たちの生活や身体にとって良い働きをする細菌も多く存在しています。私たちが普段から口にする味噌や醤油、チーズなどの発酵食品の生産現場においても細菌は多く活用されています。細菌は私たちにとって身近な生き物なのです。
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